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『横井軍平ゲーム館』を読んでの感想

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3行まとめ

  • 任天堂の発展に寄与した横井軍平氏のインタビュー本であり、任天堂や横井さんに興味がある人にオススメ
  • すぐにゲームが作れるスキルや発想力は特に身につかない
  • コイズム

感想

本書は任天堂の発展になくてはならない人であった横井軍平氏のインタビュー本です。横井氏は任天堂の一社員としてラブテスターゲームウォッチゲームボーイなどを世に送り出してきたその人です。アナログゲームとデジタルゲーム両方の分野で成功を収めており、遊びの本質を制していた人と言っても良い人です。その横井氏を著者である牧野武文氏が亡くなる直前にインタービューしたものを元に構成、解説を付け加えて1997年に発売された単行本の文庫化です。

インタビュー中に特に難しい質疑応答はなく、誰でも楽しく横井氏の昔話を聞くような感覚で本書を読むことができます。しかし、その中には横井氏の根本的な考え方が散りばめられており、読者は横井さんの哲学であるヨコイズムを透けて見ることになります。ただし、透けて見ることが本書の主題なので、具体的なアイデアが湧いてくる方法やゲーム・おもちゃの作り方を学ぶことはあまりできません。そのような目的で本書を手に取ることはオススメできません。

wikipedia横井軍平について調べるとヨコイズムついて短く解説してあるが、あれは本質ではないと私は考えています。そしてこの本を読むことによってヨコイズムの一端を垣間見ることはできますが、受け取り方は人それぞれ変わってくると思います。それだけヨコイズムが示唆に富み多様性を秘めているということでしょう。

ちなみに私の思うヨコイズムの本質とは、「アイデア」と「技術」と「実現」のバランスを図ること、そして、人を制して遊びを制するということです。アイデアだけでもそれは絵に書いた餅だし、技術だけでも楽しさは提供できないただのガラクタになってしまいます。 横井氏の有名な言葉として「枯れた技術の水平思考」があります。文字通りに受け取れば他分野で成熟した技術をエンターテイメントとして組み込むという意味になります。そういう意味ももちろんあるでしょうが、そうではなくCPU性能がどうこう、カラーだ、高画質だと単なる技術一辺倒で押し通すのではなく「アイデア」と「技術」を最適に組み合わせることが「遊び」の本質である、その時の技術とは必ずしも最先端ではないということを言っているのではないかと感じました。

そして、ヨコイズムに欠かしてはならないのは「実現」です。いくらアイデアと技術があってもお金と人がいなければ何もできないということです。そのあたりのバランス感覚の良さが横井氏の閃き力や技術力よりも秀でた一番の才能であることがよく分かります。 さらに「遊び」を制するためには、面白い遊びを作り出すだけではまだ足りなくて、その「遊び」が人々の生活にどのように溶けこんでいくかここまで先回りして予想できるようなビジョンを打ち立てないといけないということが本書からは見て取ることができました。

これらのことは、それはそれは至極当たり前のことなんだけど、そのことを根本的に理解し、実現していくことの難しさとその困難に立ち向かう光明、これこそがヨコイズムであると私は強く思っています。

「アイデアを持って策謀を成す」人 これが本書を読み終わった時の私の横井さんに対する印象でした。 作る側、遊ぶ側エンターテイメントに少しでも携わる者としてはぜひ読んでおきたい一冊です。